紙は生きもの
梅雨真っ盛り
昔お世話になっている茶道具屋へ行った時のこと
店主が以前私が納めた掛け軸を出して吊ってくれておりましたが、その軸は湿気を含んでボコボコにたわんでおりました
見ると湿気の多い水回りの棚に保管されていたようで・・・
本職の茶道具屋さえこの有様か!と思ったことがあります
方や別の茶道具屋は湿気の少ない二階の倉庫に絨毯を敷き整然と並べられ大事に保管されておりました
*
どんないい仕事をした掛け軸でも、梅雨のこの時期はダラっとなります
それが晴れた日にはピンと張ってきます
紙は驚くほど伸び縮みします
手表装された掛け軸は糊を水で溶いて作られております
ですので湿気で剥がれたりすることもあります
(だから修復ができるのですが)
一方機械で表装されている軸は熱により接着されています
ゆえに紙も糊も手表装とは全く違う材料で作られております
それぞれに利点はあるので一概には言えませんが・・・
紙は生きもの
伸びたり縮んだり
パリっとしたりダランとしたり
人間と一緒ですね!
日本の風土から生れた文化
気候や天気により変わる様を楽しむ心持ちで掛け軸に親しんでもらえたらと思っております
この時期は特にからりと晴れた日には虫干しを
季節が過ぎたお軸を鑑賞してみるのも一興です
梅雨入り
我が家の玄関でいつも見守ってくれているお狸様
梅雨入りで紫陽花帽子に衣替え♪
つぶやき
茶道具屋を始めた頃(掛け軸を始める前)
当初は抹茶碗売りから始まりました
抹茶碗の代表格である【楽茶碗】があります
縁があり、それを京都の亀岡の窯元に焼いてもらっていました
そして出来た楽茶碗を紙箱に入れて茶道具屋へ卸していました
ある日茶道具屋へいつものように卸しに行くと
「桐箱に入れて」
と言われ
それから紙箱から桐箱に
飛ぶように売れるようになりました!
コストは上がったけど 桐箱に入れた方が売れる・・・
古く
大概のお茶の道具は作品に合わせひとつひとつ作られた木箱(桐箱の他、モミの木で作ったモミ箱やうるし塗りの箱など)に入っていました
湿気やそれによる虫食いなどから守ってくれる、まさに日本独特の気候から生れた文化であり道具の保管には最適です
また物を大事にするという習慣
手間暇かけた道具の仕舞い方は職人への敬意の表れであったと思います
しかしいつしか時代が移り変わり
箱も作品までも大量生産へ
大量生産された作品が
木箱に収められ箱書きがついて高く売れる
中身より箱
そしてバブルの終焉である
たとえそれがどんな小さな作品であっても
人の作ったものにはぬくもりがある
かわいい木箱に入っている作品に出逢ったとき
ほっとする
一休庵徒然日記 第四話
【一休庵徒然日記】
第一話「大徳寺」
https://papie.hateblo.jp/entry/2018/08/04/100150
第二話「屋号一休庵」
https://papie.hateblo.jp/entry/2018/08/09/092114
第三話「茶道具屋一休庵はじまり」
https://papie.hateblo.jp/entry/2018/10/28/110957
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大変長らくお待たせしました!
第四話「大徳寺三玄院 誡堂老師」
折しも当時は茶道ブームで、大徳寺の和尚の墨蹟が飛ぶように売れていました。
茶道具屋から色々な禅語の注文(日々是好日 松樹千年翠 などなど)を聞いては和尚の所へ通う日々。
とりわけ大徳寺の中でも三玄院の誡堂(かいどう)老師に可愛がっていただきました。
老師は大徳寺で一番の達筆で売れっ子スター。
値も高くなかなか数は書いて貰えませんでした。
当時老師は80歳、亡くなられる86歳までの6年間お世話になった方です。
老師のお住まいは三玄院の裏にある見性庵(けんしょうあん)で、私が訪問するのは午後3時。
奥様がお茶を点てて下さり、世間話をしながら注文の墨蹟を頂いて帰ります。
TVの水戸黄門が大好きな方でよくご覧になられていました。
ちなみに80歳以前の墨蹟には「前大徳」と
80歳になられてからは「八十翁」を書き加えられております。落款も替えておられます。
・・・スターゆえに偽物も出回っているようです(笑)
ある日老師からご依頼があり、兵庫県の城崎にいらっしゃる兄弟弟子の宗興(そうこう)和尚を紹介していただきました。
今私どもの掛け軸に書を書いて頂いている西垣大道和尚のお父様にあたります。
以来私は城崎へも訪問することとなり、現在2代に渡りご縁が続いております。
1984年元旦
琵琶湖畔にある比良山へ正月登山をしており、下山した私に老師の訃報が届きました。
一週間前に暮れのご挨拶に伺った時はお元気でしたが、突然のことで・・・ただただそのお知らせに驚きました。
数日後、大徳寺本堂で厳かに葬儀が営まれ
私は僭越ながら(まだ34歳と若かったので)棺を担がせていただきました。
いまでもその写真が残っております。
老師は沢山の墨蹟を残しておられますが
自身で字が気に入らなければ絶対に落款は押されませんでした。
80歳を超えられてからは特に・・・(^ν^)
書に対する心は「まだまだ」と
知足のお心を貫かれたように思います。
市場に出回る誡堂老師の墨蹟は80歳を境に全く変わっております
「八十翁」「八十三翁」「八十五翁」「八十八翁」
と年齢が印されているものは希少ですので
目にすることがありましたらぜひご観察下さい(^^)
↑老師に書いて頂いた一休庵の看板には「紫野 八十翁 誡堂」と印されております(第二話参照)
神戸に茶道具店一休庵を構えながら
京都〜城崎〜神戸へと東奔西走する日々。
まだこの頃は橋渡しだけで表具はしておりませんでした。
その後まさか自分が表具屋になろうとは・・・(笑)
続く
2020/1/13 湖東から比良山系を望む
掛け軸の補修作業 ④仕上げ
掛け軸の補修作業
①解体
https://papie.hateblo.jp/entry/2020/05/02/131449
②裏返し〜つけ回し
https://papie.hateblo.jp/entry/2020/05/06/112038
③総裏https://papie.hateblo.jp/entry/2020/05/11/161902
掛け軸の補修作業④
いよいよ最後の作業《仕上げ》です
必ず晴れた日に行います
総裏をやり終えました
余分な所をカットします
裏返しにして定規をあてながら刃を軽く走らせるとうまくカットすることができます
裏から蝋を塗り、数珠玉のようなもので裏摺りします
こわばりがなくなります
掛け軸にする為の大事なパーツ
《八双》と《軸棒》をつけていきます
《八双》は丸い棒を縦に半分に割ったような形をしています
《軸棒》今回軸先にはマットな艶消しの黒を使用しました
八双に《カン》をつけ
カンに軸紐を通したら・・・
完成です!!
bifore➛after
今回の補修は本紙のシミ抜きをし
数カ所の虫食いがあったので表装を一新!
綺麗に衣替えをし生まれ変わりました
特に希少な泥揉み紙を使い仕立て直しました
一文字/印金竹屋町
中廻し・柱/七宝繋ぎ草花紋(西陣裂)
天地/泥揉紙
紙の割風帯 茶掛け三段表装
「知足者常福」題字/松雲和尚
補修作業はこれにて
〜完
掛け軸の補修作業 ③総裏
掛け軸の補修作業 ②裏打ち〜つけ回し
https://papie.hateblo.jp/entry/2020/05/06/112038
「知足者常福」
つけ回しが終了しました
一文字(いちもんじ)→柱→中廻し→天地の順番に各パーツを付け終わったら最後ひとつにまとめるための工程【総裏】です
裏返しにし板の上で作業します
長い軸ですので総裏も分割して仕上げます
生漉きの和紙を使います
掛け軸の一番上の部分は上巻きといい、特に長い軸は吊るときに負荷がかかるので丈夫で薄い正絹を使います
今回総裏には20年ものの古糊を使いました
発酵したようななかなかの香りがします(笑)
糊はダマができないよう予め細かいザルで何度か濾ししっかり溶いておきます
上巻きから順番に貼っていきます
全て貼り終えたら最後に重たい棕櫚の刷毛で叩きます
こうして紙の繊維同士を絡ませるように貼り合わせていきます
軸の下の部分は軸棒をつける所で、ここも補強するため上巻きと同じ正絹で小さな付箋のようなものを付けます(我々はお助けマンと呼んでいます)
板に張り付けたまま乾燥させます
次は軸棒や八双など部品を取り付け巻物にしていく【仕上げ】の作業に入ります
紙は生き物
晴れた日にはピンと張り
雨の日にはくたっとなります
慌てず
お天道様と相談しながらその日の作業を考えます
【つけ回し】や【総裏】は湿度の高い日が比較的やり易く、【仕上げ】は必ず晴れた日に行います
次回へ続く♪
掛け軸の補修作業 ②裏打ち〜つけ回し
掛け軸の補修作業 ①解体
https://papie.hateblo.jp/entry/2020/05/02/131449
ここからの作業は補修に限らず掛け軸を作る時と同じです
ではこれからぱぴ絵での表装工程をご紹介致します♪
①裏打ち(肌裏)
本紙に裏打ちをしていきます(肌裏)
裏打ちの紙に糊をハケで均等につけ本紙の裏に張っていきます
本紙が長いものは2枚に分けて裏打ちします
肌裏には薄くて腰の強い美濃紙を使います
弾力があり丈夫です
裏打ちをすることによりシワを伸ばし長期保存することができます
天気によりますがだいたい1〜2日ほどで乾きます
②本紙をカット
本紙の余分なところをバランスを見ながらカットします
③衣装合わせ〜つけ回し
本紙に合わせる材料をデザインしながら用意します
掛け軸の表装には専用の裂地や紙を使いますが、ぱぴ絵では桜やビワの葉などを近所から採取し草木染めをしたり墨染めをしたりして表装材料を創作したりもしています
今回は一文字・中廻し・天地の三段表装で仕立てていきます
各パーツを順番に本紙に糊付けすることを「つけ回し」と呼んでいます
まずは一文字
印金竹屋町という裂地です
禅宗の墨蹟は落款の位置などに約束事があるようですが、それは決まり事ではなく代々模倣されてきたやり方のようです
最後に押す落款はきっと一番気合いが入る瞬間だと思います
糊しろは全て一分の幅で付けていきます
柱・中廻しに七宝繋ぎの柄の西陣裂
裂地は織物なので光の具合で色や光沢が様々に見えてきます
また紋様も様々にあり、本紙の内容に沿う裂地を合わせるのも大きなポイントとなります
天地は泥揉み紙を合わせました
詫びの世界を醸し出す貴重な材料です
今回は紙の押し風帯をつけています
一文字→柱→中廻し→天地とつけ回しが完了しました
次回はいよいよ最後の裏打ち「総裏」です
継ぎ足した各パーツを最後にひとつにまとめる作業です。
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